4. 妊娠すると歯が弱くなる?
昔からよく、「一子産むと一歯失われる」というようなことを耳にします。本当でしょうか?
確かに妊娠中に母親の歯の健康が損なわれることは多いようです。しかし、これは決してお腹の中にいる赤ちゃんが悪いわけではありません。
「赤ちゃんにお母さんの歯のカルシウムを取られるから」なんて話を聞くことがありますが、そんなことはありません。
妊娠中に歯が悪化する原因は唾液の性質が酸性になり、いわゆるエナメル質の表面脱灰(歯のエナメル質が剥がれたり、とけたりする)が起こることと、母体の体温の変化により口の中にいる細菌の活動が活発になるからと考えられています。また、食生活の変化(たとえば極端に柑橘類のような酸味や甘いものを好む)食事の回数が増える割に動作が緩慢になって歯みがきを怠りがちになる、あるいはつわりが強く歯みがきができないなどによるものです。
妊娠中に注意が必要な口の中の病気
- むし歯
妊娠中は口の中の環境変化によりむし歯になりやすい状態にあります。今まで以上のブラッシング等の口腔ケアが重要です。 - 妊娠性歯肉炎、口内炎
妊娠2〜4ヶ月に起こりやすく、歯肉が赤く腫れあがり、出血しやすくなります。歯肉炎は歯肉のマッサージとプラークコントロールで十分治癒します。口内炎も口の中を清潔していればほっておいても2週間ぐらいでなくなります。 - 歯槽膿漏(歯周病)
妊娠性歯肉炎と重なると進行が速くなり、悪化すると歯がグラグラになってしまいます。ブラッシングだけでは治りません。歯周治療が必要です。 - 歯性中心感染症
歯の慢性化膿性炎症から体の他の部位に異常が起こることがあります。 - その他の症状
精神的にも不安定な時期であり、口の中の違和感、顎の不調など不定愁訴もみられます。
妊娠時の口腔清掃
つわりは、朝の起床時や疲れのたまった夜、あるいは食後につらくなることが多いようです。吐き気のあるようなときに歯をみがくのは、とてもつらいことです。歯みがきは、食後が効果的ですが、食べた後のつらいときは避けて、体調のよい時間を見つけることが大切です。リラックスできるお風呂タイムや就寝前に1日1回きちんと歯みがきすることが重要です。
◆奥から前へかきだすように
つわりのある時は、喉に近い場所は吐き気をもよおします。できるだけ奥歯に歯ブラシを当ててから、前の方にかきだすように歯ブラシを動かしましょう。
◆顔を下に向けて磨く
歯をみがいたときに喉の方に唾がたまると、その刺激で吐き気がすることがあります(嘔吐反射)。なるべく喉の方に流れないよう、下を向いて歯みがきしましょう。
◆臭いの強い歯みがき剤を大量に使用しない
妊娠中は、臭いに対して過敏になることがあります。歯みがき剤の中に含まれている香料の強いものでは、臭いを嗅いだだけで気持ち悪くなることもあります。できるだけ香料の強くない歯みがき剤を使用するようにしましょう。
虫歯や歯周病のケアではあまり歯みがき剤の薬効は考えなくても良いかと思います。
妊娠期の食生活
赤ちゃんの歯は、乳歯はもちろん永久歯の一部もお母さんのお腹の中にいる間に作られていきます。妊娠して2ヶ月頃からつくられ始めて徐々に石灰化が進み固くなって妊娠6ヶ月頃にはだいぶ歯らしくなってきます。
赤ちゃんの歯の形成期につわりによる偏食、ビタミン欠乏やカルシウム不足、あるいはフッ素の過剰摂取やテトラサイクリン系抗生物質の服用、高熱や外傷などなど、赤ちゃんの歯に悪影響をおよぼします。
母体はもちろんのこと赤ちゃんのためにも健康には十分注意してバランスのとれた食生活をしましょう。
妊娠しているからといって全く歯科治療ができないわけではありません。早期発見早期治療。妊娠4〜7ヶ月の安定期に無理のない範囲で治療しましょう。