8. 義歯の歴史
先日、患者さまが「時代劇で役者さんが叫んだり、笑ったりするシーンで、銀歯や金歯が見えたらおかしいよね」ってお話されていました。「ところで入れ歯はいつ頃からあるの?」と聞かれたのですが、その場では明確にお答えできませんでしたので、ちょっと調べてみました。
どーやら入れ歯らしきものは紀元前から作られていたようです。
これは紀元前5ないし4世紀 の間に作られたものです。
抜けた歯を金の針金を巻き付けて固定したものと、4本の天然の歯と2本の象牙で彫った人工の歯を金線で結びつけた固定式ブリッジです。
これは紀元9世紀のマヤ人の上の前歯です。
ヒスイとトルコ石の装飾が施されています。
これは私が行ったティースピアス。
左の写真は右上の前から4番目の歯に2石、右の写真は左上の犬歯に2石ジルコニアを埋め込みました。笑うと”キラッ”って光ってきれいですよ。
紀元前600年頃の人間の下あごの骨です。
前歯が抜けたところに3本の貝殻で作った人工の歯が骨に埋め込まれています。この時代からインプラントはあったのですね。
これは私の手術したインプラント。
貝殻の代わりにチタンでできた人工の根を埋め込みました。
日本最古の入れ歯は、尼僧沸姫(1538年没)の木床一木造りです。日本の当時の入れ歯で特筆すべきことは、西洋の見かけを回復する目的の入れ歯と異なり、顎によく吸い付いて噛めることです。
安土桃山時代以降、仏像彫刻の注文が少なくなり、仏師は義歯をつくることで生活の糧にしたのではないかとされています。さらに、義歯を作ることを専門とする集団が現れ、彼らを口中入歯師と称するようになりました。また、彼らの中には義歯を作るかたわら、抜歯や口の中の治療も行う者がでてきました。これらのものを歯医者と称しました。
木を彫って作った義歯。
当時の上下の入れ歯の代金は、独身者が1年暮らせる額に相当したそうです。
これは私の作った入れ歯。
保険3割負担で約10,000円。安土桃山時代に比べると現代は保険制度もしっかりしていて良かったです。1年暮らせる額の入れ歯じゃそうそう作れませんからね。
それにしても素材は違いますが上の義歯と形はそっくりですね。
現在のようにプラスチックの入れ歯になったのは19世紀になってからみたいです。
なんだかんだ言っても古代から歯医者のやっていることは、穴掘って埋めることと、ない歯を付け足す、それでもダメならあごの骨に埋め込んじゃう、材質の進歩はあるものの基本的にはあまりかわってないみたいです。
古代の歯医者さんには負けないように、手作業に少しだけ科学を加えてより良い治療を行って行きたいと思います。
【参考文献】
「歯科の歴史おもしろ読本」
著者 長谷川 正康
文春新書118 「入れ歯の文化史 ————最古の「人工臓器」 」
著者 笠原 浩