9. 味覚障害について
味覚障害は統計的に50〜70歳代が多く、高齢化に伴う食生活の変化や他疾患のための薬の服用量の増加による薬剤性障害の可能性が推測されます。
男女比は1対2と女性の方が多く、料理の味つけなどで気づく機会が多いためと思われます。
味覚障害には、味をまったく感じない味覚消失や味覚が全体的に低下する味覚減退、実際は何もないのに口の中で特定の味が持続する自発性異常味覚(苦味が最多)、本来の味の質をほかの味に感じる(甘いものが苦く感じるなど)異味症、ある特定の味のみがわからない(甘味だけがわからないなど)解離性味覚障害、すべて嫌な味に感じる悪味症などがあります。
また、舌痛や口内痛(口の中がしみる)、口腔乾燥なども随伴症状としてみられます。
原因の第1位は、薬剤性で(21.7%)、特発性(15.0%)、亜鉛欠乏性(14.5%)が三大原因であり、他に口腔疾患性や感冒罹患後、全疾患によるもの、鉄欠乏性、耳手術後(鼓索神経障害)、心因性などが挙げられます。
明確な診断基準や治療法といったものは確立していませんが、各原因の50〜60%に亜鉛欠乏が関わっているとの報告があります。
特発性(潜在性亜鉛欠乏症)
原因や誘因となるものがはっきりしない味覚障害です。潜在性の亜鉛欠乏症(食事性)が多く含まれていると推察されています。
亜鉛欠乏性
低亜鉛血症を唯一の異常所見とするもので、食事からの亜鉛摂取不足が主因といわれています。
薬剤性
長期的な内服薬の服用や多種薬剤の服用で起こることがあります。
薬剤性は原疾患治療に支障がなければ、薬剤を減量・中止し、亜鉛内服療法を行います。
口腔疾患性
口内炎,口腔真菌症,口内乾燥症,感冒による軟口蓋炎,放射線性の口腔粘膜炎などが挙げられます。その他、舌苔を気にして歯ブラシで舌を擦る、舌痛のために口内炎用の軟膏を舌に塗りすぎるなどの悪習慣も発症の一因となります。また、過度の喫煙により舌乳頭の角化異常を生じている場合などがあります。
このように口腔疾患がある場合は局所治療を優先させます。特に義歯を使用する高齢者の方は口の中や入れ歯に細菌、カビなどが繁殖しやすいので、口腔内を清潔にすることが重要です。
治療には亜鉛内服療法(硫酸亜鉛や亜鉛を含む消化性腫瘍薬のポラプレジンク)を3ヶ月ほど行うこともありますが、やはり重要なのは日頃の食生活と口腔ケアです。
以下のような食物に亜鉛が多く含まれています。バランスの良い食生活を心がけましよう。
魚介類(カキ・かずの子)、海草類(ひじき、のり)、種実類(ごま、大豆)、緑茶などがあります。
また最近、栄養補助食品として治療に用いるのに十分な亜鉛量を含む製品(ソルティア)が輸入され,デパートなどで市販されています。ノルウェー沖に生育するヒバマタ属の海藻を冷凍乾燥したもので,1粒当たり16.4mgの亜鉛を含有しています。